花便り遅々と進まぬ寒き春
コート脱ぐ日を待ちわびる日々
A COLLECTION OF TANKA POEMS
うたの
記憶
日々の暮らし、家族への想い、
季節の移ろいを詠んだ
ウタ子の短歌作品集。
大空の
まん丸月に
心澄み
過ぎし昔の
思い出辿る
遺された言葉を
そのまま未来へ
何気ない一日も、歌にすれば大切な記憶になる。
この場所には、ウタ子が綴った183首の短歌を、元のファイル名の順に収めています。原文の文字遣いや表記をできる限り大切にしました。
全183首
UTAKO TANKA COLLECTION
短歌集 1
雨の音聞きつつ眠る今宵また
昔を偲び友の顔・顔
結び文本の栞に忍ばせて
今は帰らぬ靖国の人
倖せになってくれよと結び文
ソット偲ばせ往きし人
八十路聞き眠れぬ夜の多かりて
深夜便聞く楽しみ覚え
大空のまん丸月に心澄み
過ぎし昔の思い出辿る
月の夜灯りを消してしみじみと
友と語らう過ぎし昔を
深夜便聞きつつ眠る事多く
真夜中ながる地震情報
合格を伝える孫のはずむ声
受話器の向う笑顔が浮ぶ
勉学に希望を燃やしシリア迄
一人旅立つ孫の背大きく
オルゴール裏に書かれし亡き祖父の
想いを知りし二十才の今に
夫逝きて三年の日すぎやっと今
己が楽しむ途見出して
今日からは習いはじめしこの歌に
心の丈を素直に讀もう
受験生なくなりし今まだくせで
新聞開き倍率を見る
一年はアットいう間に過ぎるから
体大事に待てと言う孫
送り来し野菜を包む新聞の
ふる里の記事胸おどり讀む
子供・孫集い来て泣き笑いつつ
夫の生前偲ぶ三回忌
夫逝きて三年の日々の一人居を
安らぎくらす今日の幸せ
亡き祖父の熱き思いのメッセージ
ひな段の脇オルゴール裏
空港で目と目が合ったその時に
三十年の空白うまる
初ものと磯の香つめて夫の友
送り来たりし夫亡き今も
初孫のエンゲージリング選ぶ日は
嬉しくもあり尚淋しくも
夜十一時携帯メール鳴りひびく
時差あるシリア孫の日課で
UTAKO TANKA COLLECTION
短歌集 2
子を亡くす辛い思いは吾も又
覚えがありて胸は痛みぬ
三十七年過ぎし今なれど
尾瀬にて逝きし娘忘られず
六十年経し今墓前尋ね来て
戦の海に散りしを無念
あの戦無ければ君は今ここに
眠る事なく居られしものを
孫娘編物習い熱心に
編目を拾う手先が可憐
浅き春娘二人に連れられて
善光寺参り信濃路の旅
杏咲く信濃の朝は春霞み
煙りて遠くアルプスの峰
学業に励む傍ら国一の
受験目指して頑張る孫は
戦なき世の続かれむ事願い
君の墓前を去りし夕暮
もしかしてもしかしたらと淡き夢
抱きて生きて六十余年
覚悟しておりしつもりも現実を
知りて希望が無くなり寂し
靖国に眠れる君は吾呼べど
答うる言葉なくて哀しき
夜勤明け受話器の向こうに孫の声
会話弾みて一日楽し
手首折りギブスはめられ動けなく
元気に過す有難さ知る
亡き夫の遺作となりし陶器鉢
好みし竹を育ててみよう
倖せになってくれよと結び文
ソット偲ばせ逝きし人
空梅雨に雨がほしいと紫陽花が
嘆くかのようにうなだれている
水芭蕉尾瀬への旅に誘う友
尾瀬にて逝きし娘ある知らず
夜九時の携帯短歌若い子の
恋の歌聞き胸おどりたり
君のもときっと帰ると往きし人
約束破り帰らぬ人に
今日もまた吾を案じてベルが鳴る
従妹の日課長距離電話
あれ食べよこれが体に良いからと
人伝聞いて教え来る従妹
子を思う親の如くに旬のもの
送りてくれる従妹の家族
人の世は海原の小舟なり
説かれし言葉八十路に解けむ
半月に向かいてソットつぶやきぬ
帰らぬ人にどうしてなのと
思いやる心を知りし言の葉に
孫の成長知りて嬉しき
青春を切磋琢磨の日が送れ
幸せな孫良き友多く
プロゼクトX見ては吾も又
かくあらねばと夢燃やす孫
人の為つくせる事は幸せと
教えられにし小五の恩師
数々の想いを乗せて闇の中
走る列車の窓は明るく
啄木の墓に参りて涙せり
苦労多かりみじかき命
娘を亡くし悲しむ母の歌讀みて
胸張り裂ける思いにからる
UTAKO TANKA COLLECTION
短歌集 3
爺ちゃんに買ってもらった印押して
婚姻届け済ましたと孫
牧師さん二人に問うた一言に
イエスと答う若き二人は
ハネムーン帰りて話すモルジブの
もぐりし海のその雄大さ
新しき人加えての正月は
より賑やかに三ヶ日過ぎ
亡き夫にごめんなさいと詫びながら
初恋の人の墓前に参る
娘孫連れだち行きし墓参り
中央高速ひた走り行く
四月には花の絨毯敷きつめて
八月今日は桃紅く熟れ
顔合せ只涙する従姉なる
ホームに暮らし二十余年
末孫の成人式の晴れ姿
まばゆい程に美しくあり
末孫の振袖姿一目でも今なき祖父に
見せてあげたし
初孫の結婚式と末孫の
成人式と佳き事続き
この佳き日見る事なくて逝きし夫
想いて涙頬を伝わる
又来るね見つめ合せた目と目とが
涙にぬれるホーム去る時
夏休みオーストラリヤに学ぶ孫
メールに託す日々の出来事
生き甲斐は何と問われて答うるは
孫の成長見る事のみと
校庭に喜寿の記念と植樹せし
百日紅咲くと友の便りに
蝉しぐれ七日でなくす命とは
余りに無情哀れさ覚え
初孫の結婚式の招待状
手にして何故か涙あふれる
初孫の結婚式の近づきて
寂しさ先で喜び後に
嫁ぎゆく孫ではなくて嫁迎う
孫なのに何故この寂しさは
雨の日の続く日毎は本讀みて
過す時間の多くて楽し
図書館で借りて讀む本時々は
何時か借り来て讀んだ事あり
この個所は孫に残しておきたいと
コピーを取りて文箱の中に
寝ながらの讀書の辛さ愚痴こぼす
孫から届く讀書スタンド
我が娘嫁がす時の寂しさは
覚え無くして何故今孫で
教授より絶賛されて嬉しくて
長いメールで知らせ来る孫
背中から祖父の温り感ずると
形見の丹前羽織りて机に
こんなにも良い子に育つ孫達を
見る事なくて逝きし夫哀れ
送られし讀書スタンド快適と
孫に感謝のメールを送る
雨音に空きの気配が胸を刺す
コオロギの声尚哀しけり
雨降りは好きだと言った幼友
今は亡き人想い出だけが
晩秋の夕暮れの空星一つ
強く輝く火星と知りし
UTAKO TANKA COLLECTION
短歌集 4
靖国の桜咲いたと九段下
住む従妹より花見の誘い
花見時賑わい過ぎる九段下
千鳥ヶ淵に葉桜楽しむ
夫逝きて四年の日々を振り返り
事無く送れし日を感謝する
みどりの日娘と孫と訪れ来
想い出語る夫の命日
孫の為生きているのだと口癖に
言いたる祖父を恋うる孫達
この姿見た時祖父はどんな顔
その顔思いみんなで涙
泣き虫の揃った我が家事々に
うれしくも泣き悲しくも泣く
近々に同級会があるらしと
友の賀状に心躍りぬ
怪我をして一年たちし今日なれど
まだまだ癒えぬ歯がゆさしきり
一年にこんなに老は進むかと
日毎夜毎の仕草に思う
去年まで何なく出来し事なのに
上手く出来ずに失敗つづき
一人居の淋しさ不安覚ゆ日の
ありたる時も無き事もなし
五k減り三十五kぎりぎりと
賀状に添書く友案じTEL
今日も又友集い来てお茶飲みの
時を送りし我が家はサロン
二十五日初天神の声を聞き
孫と参りし年思い出す
志望校一ぱい書いた絵馬奉じ
柏手打って真顔で拝む
三年前天神参りせし孫も
就職の声聞く年となり
春立つと暦の上に告げらるも
今日の寒さは未だ春遠く
何でまた同じ本等借りて来る
あんなにたくさんある本の中
本読めて字の書ける事幸せと
教えてくれし全盲の友
眼の見えぬ変わりに人の心おば
肌で感じるめしいの友は
たわむれにパソコン開き驚きぬ
作品生きて亡き夫の名が
こんなにも祖父の作品愛でくれる
人がいるならHPをと孫
孫達が力合わせてパソコンに
思いで込めて亡き祖父のHP
眼の見えぬ友と語らう一時は
吾の幸せひしひし感じ
見えぬ眼に人の心の奥底が
見えてる様に涙で光る
筋トレと名付けて通う週二日
若き人らに若さもらいに
筋トレを続けて三月気のせいか
背すじ少しは伸びたよな気が
数々の思いを乗せて闇の中
走る列車の窓は明るく
ホーホケキヨ初音は春の訪れを
告げるかのよに鶯の声
水仙にフリージヤにと春知りて
今朝アイリスが咲き初夏覚ゆ
散る花の風情楽しむ事出来ず
春の嵐に散りゆく桜
UTAKO TANKA COLLECTION
短歌集 5
夏休み孫はひたすら夢願い
社会勉強余念なく励む
孫達の将来見たく思うけど
そんなに永く生きる不安も
永年をホーム暮らす友尋ね
逢うは嬉しく別れがつらく
「ただいま」と玄関開けて誰に言う
一人住まいを忘れた日々に
誰かしら尋ねてくれる孫五人
その都度何かうれしき事が
来春の卒業なのに早々と
就職きまりホット一息
孫達もみんな進路を選ぶ時期
それぞれ思い婆々にも告げて
筋トレで体動かす楽しさを
覚えて通うエクササイズに
駅前で友を待つ間に若き日の
待合せ時のフィルムが浮び
若き日に友と語りし事ありき
駅の灯りの寂しき様を
暑さにも負けずに咲いた百日紅
それにも負けじと蝉の音しげく
蝉しぐれ昼は烈しく聞こえしが
夜には秋を告ぐ虫の声
逝きし娘の愛した花の一つなり
都忘れの咲く庭に立つ
仏壇の中の写真は未だ二十才
還暦近き姿浮かばず
孫娘時代小説にはまり込み
古本探して買い込んで来る
時代物讀んでわからぬ言葉あり
メールに託し聞いてくる孫
孫の問いわれも解らぬ事多く
戸惑うことの多さに恥じる
亡き夫に子守歌のよに毎夜毎
歴史の話聞かされし孫
その話続きは明日と言い聞かせ
添寝の時も今は思い出
爺ちゃんに歴史の話子守歌
代わりに聞いて今歴史好き
肩はこり目もつかれ来て思わずに
本をなげ出し長々と寝る
村はなれ都会に暮らす幾年を
あかねの歌集に故郷忍ぶ
内定は多社取りてあり八月末
第一志望の発表を待つ
週二日通う体操教室は
友達増やす場となりにけり
今ならば俺達やっと爺ちゃんの
話相手になれたのにと孫
こんな婆々進路相談してくれる
何の役にも立たずも嬉し
救急車我が家の前に停まりしと
我を案じて友四・五人も
従妹より取り立て蕨送りくる
山菜おこわ炊いてふるまう
たち葵天辺迄に咲ききって
梅雨の終わりの近きを覚ゆ
半月は静かな光放しつつ
中天の空静かに浮かぶ
中天に静かに光る半月に
去年逝きし友浮かびては消え
孫達に幸多かれと短冊に
託して願う七夕飾り
UTAKO TANKA COLLECTION
短歌集 6
退院を知りし友等日替りに
朝な夕なに食運び来る
スープ炊きおかず作りて朝夕に
届けてくれる友あり嬉し
友の背に何時の日にかはこの情
返すからねと心に誓う
病気して人の情にふれてみて
生きる倖せ愛せれる事
月二回通う医院の窓辺には
その節々の美しき花
あの友が又この友が入院と
聞きにし日には胸痛みたり
今日も又無事に過ごせし有難さ
ジットかみしめ感謝する夜
散る落葉表に裏に色違え
吹く木枯しにからころの音
父母も逝き夫も亡くした悲しみも
知りしが逝きし娘尚悲し
病室で九月にはパパとなる事
告げる初孫顔いきいきと
年一度花見よそおい靖国へ
逝きにし君へ声掛けに行く
声掛けど答うる言葉なくさみし
桜の花の下に立ちしも
大銀杏色付き初めて秋覚え
散り行く様に行く秋惜しむ
十五夜は雨で見られず十六夜の
月を眺めて物思う夜
温泉の帰りの車窓中天に
十三夜の月煌々と輝る
月を見て物思う事楽しむは
娘逝きての後の慣わし
鈴本に落語を聞きに孫と行き
倖せしみる帰りの電車
末孫はまだ一年の学業を
残していての就活に入り
ひたすらに胸ふくらませ就活に
パソコン開き探し求める
アルバイトオックスフォード大学の
出版社に外資の良さ知る
吾思い九十五才の従姉婆
嫁に内緒と物送り来る
四月から社会人だと胸を張る
二人の孫の顔はればれと
八十路まで病知らずに生きて来た
ありがたさ知る病に臥して
我が病案じて従妹己が身の
病めるも忘れ見舞ってくれる
就職は外資望むも新卒は
採用無しと落胆の孫
孫達は自由自在のパソコンが
私は使えず埃まみれに
目残しの柿の実つつく百舌鳥一羽
花火の音に驚きて飛び
落ち葉掃き堆肥とならぬ銀杏の葉
厄介者と邪魔にされて
婆々が病み案ずる孫は氏神に
参りて守り受けてきてくれ
我が病娘も孫もこんなにも
案じてくれる心根嬉し
日替りに顔見にきたと孫五人
見舞ってくれて元気を貰う
千羽鶴折りて病の枕辺に
快復願い掛けてくれし友
AFTERWORD
言葉は、時を越えて。
遺された一首一首が、これからも家族の記憶をそっとつないでいきます。